2008/07/11

マルコポーロの夢



その町にはあらゆる都市の建築様式が集められている。

手に入れ難い貴石でできた床には
南洋の貝を集めた迷路の象嵌
堅く目の詰んだ木材でしっかり組んだ鐘楼
赤がねの屋根の上に鳳凰を戴いた家々。
それぞれが贅を尽くして高さを競っている。

こうして立ち並ぶ家々が
この都市を流れるメコン川にそって
途切れることの無い城壁を形成している。
その眺めは、侵入者に対して威嚇するどころか
醒めない夢のような都市の幻影として
彼の夢に入り込み、ついには
そのイメージは逃れがたいものとなる。

あるいはまた
この城壁のはその内部に
途方もないカオス、混乱と喧騒を
抱えている。
けたたましい物売りの叫び声
行く先不明の無数の通行人
腐った食べ物のにおい
自分より大きな花束を抱えて歩く花売り
おびただしい数の壊れた乗り物と
そのエンジンの吐き出す排気
夜暗がりの中で息を吹き返す蝙蝠の群
あらゆる水溜りに潜む色鮮やかな爬虫類
太陽が沈んだ後も 煮えた様に熱い大気
そして明け方の一瞬だけに訪れる青い朝

この城壁は
そうした1日を終えて家へと帰る人々が
真っ黒な瞳で見るための
夢の形象であり
この蜜実な都市がメコンデルタへと
流失することの無いように
堰き止めるための堤防である。

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